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研究概要
ゲノム・染色体工学分野
高等真核生物のゲノムはDNAのみならず,そのDNAの折りたたみ,複製,転写,修復などの維持管理および機能発現に関係するさまざまなタンパク質が複合したクロマチン繊維として存在している。
このクロマチン繊維は細胞分裂に際して,DNAおよびその機能発現・維持管理に必須なタンパク質群を娘細胞に均等に分配するために,高度にパッケージングされた染色体という高次構造をとる。
この染色体こそが高等真核生物に特有の遺伝情報の高次構造であり,ゲノムの機能発現に深く関わっている。
細胞動態学領域では植物や動物細胞を用いて、
(1)ゲノムや染色体の三次元動態の可視化、
(2)新しい形質転換法の開発、
(3)タンパク質の立体構造解析や相互作用の動態解析等の研究を進めている。
染色体さらには、遺伝情報の総体としてのゲノムを対象にそれらが有する構造・機能情報を動的に理解し,人類の福祉,地球環境の保全のために利用することを考えている。

114 kbの細菌人工染色体(BAC)DNA (伊藤 1999)


McFISH法によるヒト染色体の染め分け (オクタビアヌス 1999)

(1)ゲノム・染色体情報の解析・利用に関する研究
染色体は、遺伝的情報を保持する巨大分子として、古くから可視化解析がなされてきた。
今日では蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)により数百塩基対をDNA配列の染色体上に可視化することが可能になっている。
また、DNA鎖同士の相補性を用いたハイブリダイゼーションだけでなくメチル化シトシンを抗体などで検出する抗原抗体反応を利用した可視化法の開発も試みている。
さらに、左図のようにスライドグラス上に展開したDNAファイバーを直接標的とした伸長DNAファイバーFISH(EDF-FISH)を行うことでさらに高精細な遺伝子領域の可視化が可能である。
また近年、これらの染色体やDNAファイバーを可視化するのみでなく直接取り扱う技術が開発されてきている。大型の染色体をその大きさによって分取する技術としては、フローソーティングがあり、ヒト染色体については24種類の染色体を分取することが技術が開発されている。各染色体に特異的な反復配列を用いて、左図のように多蛍色FISH(McFISH)によって24種類の染色体を全て染め分けることも可能となっている。このように分取した染色体をチップ上に整列できれば、位置情報をも併せ持った次世代型DNAマイクロアレイ技術の開発も夢ではない。また、DNAをマイクロビーズに封入して、光ピンセットなどのマイクロマニピュレーション技術を用いて自在に操り生物細胞内に導入する新たな形質転換法の開発も試みている。


オオムギ染色体の電子顕微鏡像 (岩野ら 1997)

(2)染色体プロテオーム解析
高等真核生物のゲノムは細胞分裂に際して、DNAおよびその機能発現・維持管理に必須なタンパク質群を娘細胞に均等に分配するために、高度にパッケージングされた左図のような染色体という高次構造をとる。この染色体の高次構造を解明することは、高等真核生物に普遍的かつ基本的なゲノムの機能を解明することに大きく貢献すると考えられる。本研究では、近年確立してきたプロテオーム解析の手法を用いて分裂期にある染色体と間期の核に含まれるタンパク質を比較することで分裂期染色体に特異的なタンパク質を包括的にカタログ化し、それらのうち染色体構造を形成するタンパク質群、および染色体にパッケージされ染色体構造の解離と共にリリースされるタンパク質群の構造と機能を明らかにし、未だ謎に包まれている染色体の高次構造を解明しようとするものである。


核内における染色体の三次元的配置 (若生 1999)

(3)ゲノムの3次元解析(トポロジカルマッピング)
生物は本来3次元的なものである。そのため、核、染色体、オルガネラ、微小管といった細胞内小器官は、生細胞内では立体的な配置を取っている。その構造を支えるのが構造に特異的なタンパク質である。詳細な3次元観察を可能とするデコンボリューション法を用いて蛍光抗体やGFP融合タンパク質の局在を調べることにより、構造に特異的なタンパク質の3次元的な配置を明らかにできる。例えば、抗アセチル化ヒストン抗体による蛍光抗体染色法とテロメアDNAおよびセントロメア特異的DNAをそれぞれ別々の蛍光色素により標識したFISH法によって、左図のように核内でのアセチル化ヒストン、テロメアDNAおよびセントロメア特異的DNAの位置が3次元的に明かとなった。すなわち、2次元的には染色体上で「最も遠い所」である両末端部が、3次元的には「最も近い所」であり、かつヒストンがアセチル化されていることが明らかになり、染色体上の活性のある遺伝子は両末端部に存在するというパラドクスが解かれたのである。