環境とリスク評価

研究のねらい

化学物質の数は、今や指数関数的に増加し、公的に登録されている数は、2013 年 12 月現在 7800 万種を超えています(http://www.cas.org/)。 これら化学物質は、単独だけでなく複合的にも生物に作用を及ぼします。一方で、その作用については、わかってないことが多くあります。 ミジンコは、生態系で重要な位置を占めるだけでなく、化学物質に対する感受性が高いため、世界中の研究機関の毒性試験に用いられています。 そこで我々はミジンコを用いて、化学物質が生物にどのように作用するのかを明らかにすることを目指しています。 生物と共生する細菌の存在は化学物質耐性に影響を与えるのか?複数の化学物質暴露の影響は単一の化学物質の影響から予測できるのか? 化学物質に対する感度と作用機構の関係性は? これらの疑問を明らかにするために、我々はライブイメージングを用いて、次世代型の化学物質の毒性評価法を開発しています。


図1:ライブイメージングによる化学物質の毒性評価
a) 遊泳しているミジンコを撮影し、画像解析により体のサイズを算出(曝露後 4 日)
b) 化学物質に応答するGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子をゲノムに導入したトランスジェニックミジンコ(TG Daphnia)の緑色蛍光を検出(曝露後 6 時間)
1. 成長速度を指標とした毒性評価

 我々は、これまでにライブイメージングを用いて成長速度を測定する方法を開発しました [Suzuki et al, J Applied Toxicol, in press]。 デジタルカメラを用いて遊泳している個体を直接撮影し体長を測定するというこの方法は、顕微鏡下にミジンコを移動させ測定する方法よりも簡単かつ迅速です。 また、個体の重量変化から成長速度を求める方法とは異なり多くの個体を必要しません。さらに成長速度の変化の検出可能日数は 4 日であり、 従来行われてきた繁殖阻害試験よりも5 倍以上短い期間で毒性を評価できます。 現在、この方法を用いて毒性試験のハイスループット化を目指しています。


▲図2:成長速度の測定と化学物質の毒性評価
a) 遊泳個体の撮影システム
b) 殺虫剤フェノキシカルブの濃度依存的な成長速度の低下
2. 遺伝子発現を指標とした毒性評価

 化学物質の毒性評価を遺伝子レベルで行うことも目指しています。 これまでに、脱皮ホルモン活性を持つ化学物質が引き起こす遺伝子発現変化を、緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光強度の変化を指標として個体レベルで検出する システムの開発に成功しました [Asada et al, Mar Environ Res, in press]。従来の試験では不可能であった化学物質の標的器官の解明につながります。 化学物質により引き起こされる遺伝子発現の変化は、生物に重篤な毒性影響が現れる前に起こることから、 遺伝子発現を指標とすることでより早くより鋭敏に化学物質の毒性を捉えられるようになることが期待されます。


▲図3:代表的な脱皮ホルモン 20E(20-hydroxyecdysone)に応答した GFP 遺伝子の活性化

どのような分野の研究か?

環境毒性学、分子細胞生物学、ゲノム工学という分野の研究です。


実験材料は?

ミジンコの中でも最大であるため取扱いが容易であり、遺伝情報が整理され遺伝子操作も行うことができるオオミジンコを実験材料としています。

 
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