環境と健康

研究のねらい

環境要因は、生物の成長・発達に影響を与えます。特に胎仔期は、環境の変化に脆弱と言われています。 胎仔期に化学物質に曝露されるとすぐにその影響が表れず、大人になってからガンなどの病気が生じる、 いわゆる「化学物質の遅発的影響」が引き起こされることが知られています。このため、化学物質曝露と病気との因果関係や、 その病気の発症メカニズムの解明が困難となっています。我々は、胎仔期に化学物質に曝露されたことが、どのように細胞に記憶され、 成長した後に毒性影響として現れるのかを明らかにするために、 以下の2つの化学物質による生じる病変の解析を行っています。


図1:胎児期曝露の遅発的影響 胎児(Fetus)の時期に特定の化学物質に曝露されると、幼少期(Child)は健康であっても、大人(Adult)になってから生殖器や神経系に異常が現れる。1)Diethylstilbestrol、2)Bisphenol A の曝露の遅発的影響の分子メカニズムを解析する。
1. 合成エストロゲン曝露による生殖器官のがん化

 合成エストロゲン(女性ホルモン)であるジエチルスチルベストロール(DES)は、50 年以上前に妊婦に処方されていた流産防止剤です。 胎仔期にこの薬剤に曝露されると、低容量であっても、成長してから生殖器官ががん化することが明らかとなり、現在は使用が禁止されています。 DES により引き起こされる病変はマウスを用いた動物実験でも再現されます。本研究では、「化学物質の遅発的影響」を解析するためのモデル生物としてマウスを使用し、 女性ホルモン作用を可視化するトランスジェニックマウスを利用するなどしてそのメカニズムの解明に迫ります。

2. ビスフェノールA曝露による神経系への影響

 プラスチックや接着剤の原料として用いられているビスフェノールAもまた、胎児期に曝露されると成長してから思春期の早発や遅発、 神経や行動などに影響を及ぼすとされています。さらに複雑なことに、従来の毒性試験では影響が無いとされている量よりもさらに低容量に曝露された時に 遅発的影響が生じることも明らかになってきており、毒性の詳細なメカニズムの解明が国際的に求められています。 我々は、投射神経を可視化するトランスジェニックマウスを用いて、ビスフェノールによる神経系への曝露影響を解析しています。


どのような分野の研究か?

毒性学、分子細胞生物学、内分泌学、神経科学という分野の研究です。


実験材料は?

ヒトと同じ哺乳類であり、モデル生物であるマウスを実験材料としています。

 
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